通関士の平均年収を示す公的な統計は、存在しません。
総務省の日本標準職業分類に「通関士」という区分がないからです。
求人サイトの数字はよく見かけますが、それは公的統計ではなく各社の掲載データです。
この記事では、まず公的統計で何がわかって何がわからないのかを切り分け、そのうえで通関士の仕事内容と働く場所を公式資料で確認します。
編集部のアドバイス

年収を調べていると「通関士の平均年収は◯◯万円」という数字がいくつも出てきます。出どころが公的統計なのか求人データなのかで意味が変わります。求人データは「今募集している求人の提示額」であって、働いている人の平均ではありません。判断材料にするなら、どちらの数字を見ているのか確かめてください。
通関士の平均年収は公的統計に存在しない

国の統計で職種別の賃金を見るときは、総務省の日本標準職業分類が基準になります。
この分類の全416項目を検索したところ、「通関」を含む項目は1件もありませんでした。
通関士の仕事に最も近い区分は次のあたりです。
| 大分類 | 中分類 | 小分類 |
|---|---|---|
| C 事務従事者 | 30 運輸・郵便事務従事者 | 301 旅客・貨物係事務員 |
| C 事務従事者 | 30 運輸・郵便事務従事者 | 302 運行管理事務員 |
| C 事務従事者 | 30 運輸・郵便事務従事者 | 303 郵便事務員 |
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ここには資格の有無という区切りがありません。
つまり同じ「旅客・貨物係事務員」に、通関士の資格を持つ人と持たない貿易事務の人が一緒に入ります。
この区分の平均値を見ても、通関士という資格を持った人の年収は取り出せません。
公的統計に区分がないので、「通関士の平均年収は国のデータで◯◯万円」と書ける根拠はどこにもない、というのが正確な状況です。
斉藤さやか「区分がないなら調べても無駄なのか」と思うかもしれませんが、そうではありません。区分がないと分かっていれば、ネット上の数字がどこから来ているのかを確かめる目線が持てます。出どころを書いていない年収データは、それだけで判断材料としては弱いです。
通関士の年収を推し量る代わりに産業別賃金を見る

公的統計で最も近いのは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。
職種別の章はないので、産業別の数字になります。
令和7年(2025年)の所定内給与額です。
| 産業(男女計・年齢計) | 所定内給与額 | 対前年 |
|---|---|---|
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 444.0千円 | +1.5% |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 440.3千円 | +9.6% |
| 金融業,保険業 | 437.0千円 | +6.4% |
| 情報通信業 | 406.0千円 | +3.8% |
| 卸売業,小売業 | 349.1千円 | +1.6% |
| 運輸業,郵便業 | 312.7千円 | +2.6% |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 277.2千円 | +2.9% |
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運輸業,郵便業は312.7千円で、掲載されている産業の中では低めの位置にあります。
男女別では男322.3千円、女263.2千円です。
ただしこの数字を「通関士の給与水準」と読み替えることはできません。
理由は3つあります。
| 理由 | 内容 |
|---|---|
| 職種の混在 | 運輸業,郵便業には自動車運転従事者・荷役作業員・郵便配達員など現業職が大量に含まれる |
| 産業の分散 | 通関業者は商社・フォワーダー・倉庫会社など複数の産業に分かれて存在する |
| 指標の性質 | この数値は令和7年6月分の所定内給与額で、賞与や時間外手当を含まない |
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とくに3つめは見落とされがちです。
所定内給与額は月額で、賞与を含みません。
12を掛けても年収にはなりません。
産業別賃金は「通関士が属しうる産業の水準感」までは教えてくれますが、資格を持つ人の年収そのものには届かない、という位置づけになります。
通関士の仕事内容は通関書類の審査と記名
年収の話がぼやける一方で、仕事の中身は法律に明記されています。
通関業法第14条です。
「通関業者は、他人の依頼に応じて税関官署に提出する通関書類のうち政令で定めるもの(通関士が通関業務に従事している営業所における通関業務に係るものに限る。)については、通関士にその内容を審査させ、かつ、これに記名させなければならない」
審査して記名する、という役割が法律で通関士に割り当てられています。
対象となる書類は施行令で決まっています。
| 対象書類 |
|---|
| 輸出または輸入の申告書、保税蔵置場等への搬入承認申請書など |
| 不服申立書 |
| 特例申告書 |
| 修正申告書および更正請求書 |
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つまり輸出入の申告そのものが仕事の中心です。
さらに通関業法は、通関士を置くこと自体を義務づけています。
「通関業者は、通関業務を適正に行うため、その通関業務を行う営業所ごとに、政令で定めるところにより、通関士を置かなければならない」
営業所ごとに通関士が必要という、いわゆる必置資格です。
人数は一律に決まっていません。
施行令第5条は「貨物の数量及び種類並びに通関書類の数、種類及び内容に応じて必要な員数」と定めています。
斉藤さやか「通関士がいないと営業所が回らない」という構造は、この資格の強みです。景気や会社の方針でポストが消えるタイプの資格ではありません。年収の統計が取りにくいことと、需要があることは別の話です。
通関士の仕事はNACCS前提の実務になっている
試験の出題内容から、実務の形が読み取れます。
第60回通関士試験の公告には、通関実務の出題についてこう書かれています。
「輸出入・港湾関連情報処理システム(NACCS)を使用して行う輸出申告と輸入申告の問題を、前回(第59回)と同様の形式で各1問出題する」
試験で「NACCSを使用して行う申告」が正面から問われています。
申告が電子システム上で完結する業務であることの、公式な裏づけです。
願書の提出手続でもNACCSが使えます。
| 提出方法 | 受験手数料 |
|---|---|
| 書面(収入印紙) | 3,000円 |
| NACCSを使用して提出 | 2,900円 |
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紙とNACCSで100円の差があります。
金額は小さいのですが、受験の段階からNACCSに触れる設計になっている点は業界の性格を表しています。
通関士が働く場所は全国2,036の通関営業所

税関は通関業者の一覧を公表しています。
令和8年6月1日時点の一覧表(全2,036行)を当サイトで集計した結果です。
| 項目 | 件数 |
|---|---|
| 通関業者 | 997社 |
| 通関営業所 | 2,036か所 |
| 通関営業所がある都道府県 | 47都道府県すべて |
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営業所の多い都道府県の上位です。
| 都道府県 | 営業所 | 業者 |
|---|---|---|
| 大阪府 | 320か所 | 261社 |
| 東京都 | 313か所 | 277社 |
| 神奈川県 | 217か所 | 203社 |
| 千葉県 | 168か所 | 139社 |
| 福岡県 | 158か所 | 112社 |
| 愛知県 | 156か所 | 115社 |
| 兵庫県 | 138か所 | 117社 |
| 北海道 | 65か所 | 40社 |
| 山口県 | 41か所 | 31社 |
| 広島県 | 41か所 | 29社 |
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上位7都府県で1,470か所、全体の72.2%を占めます。
千葉県が168か所と多いのは、成田国際空港の周辺に営業所が集まっているためです。
千葉県の168か所のうち110か所、65.5%は所在地に「成田」を含みます。
一方で内陸県にも営業所はあります。
| 都道府県 | 営業所 |
|---|---|
| 岐阜県 | 3か所 |
| 鳥取県 | 2か所 |
| 埼玉県 | 1か所 |
| 山梨県 | 1か所 |
| 奈良県 | 1か所 |
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47都道府県すべてに1か所以上あります。
ただし数は極端に偏っています。
働く場所を探すなら港湾と空港のある地域、という現実は数字にはっきり出ています。
名乗れる状態になるまでは、試験合格が最初の条件です。
合格までの費用は通関士講座の受講料とサポートで把握できます。
通関士は財務大臣の確認を受けて初めて名乗れる
試験に合格しただけでは通関士になりません。
通関業法第31条に手続が定められています。
「通関業者は、通関士試験に合格した者を通関士という名称を用いてその通関業務に従事させようとするときは、その者の氏名、通関業務に従事させようとする営業所の名称その他政令で定める事項を財務大臣に届け出て、その者が次項の規定に該当しないことの確認を受けなければならない」
届け出るのは本人ではなく、雇う側の通関業者です。
確認の相手は財務大臣です。
流れを整理します。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 1 | 通関士試験に合格する | 通関業法第23条 |
| 2 | 合格により全国の税関の管轄区域で通関士となる資格を得る | 通関業法第25条 |
| 3 | 通関業者に就いて、その業者が財務大臣に届け出て確認を受ける | 通関業法第31条 |
| 4 | 通関士の名称で通関業務に従事する | 通関業法第31条 |
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合格しても勤め先が決まらなければ、通関士として名乗る段階には進めません。
逆に合格の効果そのものは全国で通用します。
第25条は「通関士試験に合格した者は、どの税関の管轄区域内においても、通関士となる資格を有する」と定めています。
転職で地域が変わっても再受験は不要です。
通関業務を離れると通関士でなくなる
見落とされやすい条文があります。
通関業法第32条です。
| 通関士でなくなる場合 |
|---|
| 確認を受けた通関業者の通関業務に従事しないこととなったとき |
| 欠格事由に該当するに至ったとき |
| 通関士試験の合格の決定が取り消されたとき |
| 偽りその他不正の手段により確認を受けたことが判明したとき |
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その通関業者の通関業務から離れると、通関士ではなくなります。
ただし試験合格の効果である「通関士となる資格」(第25条)は失われません。
別の通関業者に移り、その業者が改めて確認を受ければ、また通関士として従事できます。
「通関士でなくなる」と「合格が無効になる」は別だということです。
斉藤さやかここは実務でも誤解されやすいところです。合格証書は一生ものですが、「通関士」という肩書きは勤め先とセットです。名刺に書けるのは確認を受けている間だけだと考えてください。
通関士には守秘義務と懲戒処分がある
年収や待遇を考えるうえで、責任の重さも押さえておきたい部分です。
通関業法には次の定めがあります。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 第19条(秘密を守る義務) | 通関業者・通関士・その他の通関業務の従業者は、正当な理由なく通関業務に関して知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならない。職を離れた後も同様 |
| 第33条(名義貸しの禁止) | 通関士は、その名義を他人に通関業務のため使用させてはならない |
| 第35条(通関士に対する懲戒処分) | 財務大臣は、通関士が法令の規定に違反したとき、戒告し、1年以内の期間を定めて通関業務に従事することを停止し、または2年間その者が通関業務に従事することを禁止することができる |
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守秘義務は退職後も続きます。
懲戒処分は財務大臣が行い、最も重いものは2年間の従事禁止です。
書類に記名する立場である以上、その記名に責任が伴う設計になっています。
通関士の年収と仕事内容に関するよくある質問
通関士の平均年収はいくらですか?
公的統計に通関士の区分がないため、国のデータとしての平均年収は存在しません。
総務省の日本標準職業分類の全416項目に「通関」を含む項目は1件もありません。
求人サイトに出ている年収は信じていいですか?
掲載されている求人の提示額としては事実です。
ただし働いている人全体の平均ではないので、公的統計の代わりにはなりません。
通関士の仕事内容は何ですか?
税関官署に提出する通関書類の内容を審査し、記名することです。
通関業法第14条で通関士の役割として定められています。
合格すればすぐ通関士と名乗れますか?
名乗れません。
通関業者に就き、その業者が財務大臣に届け出て確認を受ける必要があります(通関業法第31条)。
転職すると資格を取り直す必要がありますか?
ありません。
合格の効果は全国の税関の管轄区域で通用します(通関業法第25条)。
移った先の通関業者が改めて確認を受ければ従事できます。
通関士が働く会社はどこにありますか?
令和8年6月1日時点で通関営業所は全国2,036か所あり、47都道府県すべてに1か所以上あります。
ただし上位7都府県に72.2%が集中しています。
通関士は必置資格ですか?
そうです。
通関業法第13条により、通関業者は通関業務を行う営業所ごとに通関士を置かなければなりません。
まとめ|通関士の年収は公的統計にないが役割は法律で明確
- 総務省の日本標準職業分類に「通関士」の区分はなく、公的な平均年収は存在しない
- 最も近い区分は「旅客・貨物係事務員」等で、資格の有無で分かれない
- 産業別では運輸業,郵便業が312.7千円だが、現業職を多く含むため代理指標にならない
- この数値は令和7年6月分の所定内給与額で、賞与や時間外を含まない月額
- 仕事内容は通関書類の審査と記名(通関業法第14条)
- 通関士は営業所ごとに必要な必置資格(通関業法第13条)
- 合格後は通関業者が財務大臣に届け出て確認を受けて初めて名乗れる(第31条)
- その通関業務を離れると通関士でなくなるが、合格の効果は残る(第32条・第25条)
- 通関営業所は全国2,036か所・997社で、上位7都府県に72.2%が集中
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