医療事務の年収を調べると「平均300万円前後」という数字が並びます。
ところがこの数字には出典として使える公的統計がありません。
理由は、国の統計で使われている職業分類に「医療事務」という区分そのものが存在しないからです。
この記事では、なぜ公的な平均年収が出てこないのかを分類表で確認し、代わりに使える統計がどこまで言えるのかを整理します。
編集部のアドバイス

求人サイトが出している「平均年収」は、そのサイトに掲載された求人の提示額を平均したものです。掲載企業の偏りがそのまま反映されるので、サイトによって数十万円ずれます。公的な数字と同じ重みで受け取らないほうが安全です。医療事務の収入を知りたいときは、地域の実際の求人条件を複数見るのが結局いちばん正確です。
医療事務の年収が公的統計に出てこない理由

国が賃金を職種別に集計するときは、総務省の日本標準職業分類を使います。
この分類の「大分類C 事務従事者」に含まれる区分は次のとおりです。
| 中分類 | 小分類 |
|---|---|
| 一般事務従事者 | 庶務事務員/人事事務員/企画事務員/受付・案内事務員/秘書/電話応接事務員/総合事務員/その他の一般事務従事者 |
| 会計事務従事者 | 現金出納事務員/預・貯金窓口事務員/経理事務員/その他の会計事務従事者 |
| 生産関連事務従事者 | 生産現場事務員/出荷・受荷事務員 |
| 営業・販売事務従事者 | 営業・販売事務員/その他の営業・販売事務従事者 |
| 外勤事務従事者 | 集金人/調査員/その他の外勤事務従事者 |
| 運輸・郵便事務従事者 | 旅客・貨物係事務員/運行管理事務員/郵便事務員 |
| 事務用機器操作員 | パーソナルコンピュータ操作員/データ・エントリー装置操作員/電子計算機オペレーター/その他の事務用機器操作員 |
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どこにも「医療事務員」がありません。
医療機関の事務職は、担当業務に応じて「受付・案内事務員」や「総合事務員」「その他の一般事務従事者」などに振り分けられます。
賃金構造基本統計調査は令和2年調査から日本標準職業分類と整合的な職種144区分で集計しているため、医療事務だけを抜き出した賃金は公表されていません。
斉藤さやか「医療事務の平均年収は◯◯万円」と断言している記事を見かけたら、出典を確認してみてください。ほぼ求人サイトの自社集計です。悪いデータではありませんが、公的統計ではないという前提で見る必要があります。
医療事務の年収に最も近い公的数字は産業別の賃金

職種で取れないので、産業で見ることになります。
令和7年賃金構造基本統計調査の産業別の所定内給与額です。
| 区分 | 所定内給与額(男女計) |
|---|---|
| 産業計 | 340.6千円 |
| 電気・ガス・熱供給・水道業(最高) | 444.0千円 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 440.3千円 |
| 医療,福祉 | 315.7千円 |
| 宿泊業,飲食サービス業(最低) | 277.2千円 |
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「医療,福祉」は315.7千円で、対前年3.0%増でした。
産業計の340.6千円を下回っています。
この産業の平均年齢は44.0歳、平均勤続年数は9.9年です。
年齢による上がり方はゆるやか
「医療,福祉」の年齢階級別の賃金です。
| 年齢階級 | 所定内給与額 |
|---|---|
| 〜19歳 | 192.4千円 |
| 20〜24歳 | 249.0千円 |
| 25〜29歳 | 277.3千円 |
| 30〜34歳 | 298.8千円 |
| 35〜39歳 | 321.5千円 |
| 40〜44歳 | 328.6千円 |
| 45〜49歳 | 330.0千円 |
| 50〜54歳 | 337.0千円 |
| 55〜59歳 | 347.8千円 |
| 60〜64歳 | 323.3千円 |
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40〜44歳の328.6千円から55〜59歳の347.8千円まで、15年で19.2千円しか動きません。
40代以降はほぼ横ばいだということです。
「医療,福祉」の数字を医療事務の給料として読めない理由
ここが最も注意が必要なところです。
産業「医療,福祉」には、医師・歯科医師・看護師・薬剤師・理学療法士・介護職員などがすべて含まれます。
医療事務はその中の事務職の一部にすぎません。
| 読み方 | 判断 |
|---|---|
| 医療,福祉の315.7千円=医療事務の給料 | 誤り。医師・看護師を含む平均 |
| 医療,福祉の315.7千円=医療機関で働く人全体の平均 | おおむね妥当 |
| 医療事務の給料を公的統計で特定する | 現状できない |
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高収入の専門職を含んだうえで産業計を下回っているため、事務職単独の水準がこの数字より低い可能性は十分にあります。
逆に言えば、この315.7千円を医療事務の目安として紹介するのは過大評価になりえます。
医療事務の年収は雇用形態で117.1千円変わる

医療事務は正職員とパートの両方で募集される職種です。
そのため雇用形態の差が年収に直結します。
令和7年の雇用形態別の所定内給与額です。
| 区分 | 正社員・正職員 | 正社員・正職員以外 | 差 |
|---|---|---|---|
| 男女計 | 358.8千円 | 241.7千円 | 117.1千円 |
| 男性 | 387.4千円 | 268.1千円 | 119.3千円 |
| 女性 | 304.9千円 | 218.4千円 | 86.5千円 |
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雇用形態間の賃金格差は、正社員・正職員を100とすると男女計で67.4です。
産業や職種を問わず、非正規は正規の約3分の2という構造になっています。
医療事務で「年収が低い」と言われる場面の多くは、この雇用形態の差を見ています。
パートで働くなら見るべきは時間当たりの賃金
短時間勤務を前提にするなら、月額ではなく時給で比べるほうが実態に合います。
| 区分 | 1時間当たり賃金 |
|---|---|
| 男女計 | 1,518円 |
| 男性 | 1,769円 |
| 女性 | 1,418円 |
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短時間労働者で1時間当たり賃金が最も高い年齢階級は男女とも35〜39歳で、女性は1,569円でした。
ただしこれも全産業の数字で、医療事務に限った時給ではありません。
月額から医療事務の年収を計算するときの落とし穴
賃金構造基本統計調査の数字を年収に直すとき、単純に12倍すると誤差が出ます。
公表されている「所定内給与額」の定義を確認します。
| 項目 | 所定内給与額に含まれるか |
|---|---|
| 基本給 | 含まれる |
| 職務手当・精皆勤手当・通勤手当・家族手当 | 含まれる |
| 時間外勤務手当・深夜勤務手当・休日出勤手当 | 含まれない |
| 賞与・期末手当(年間賞与その他特別給与額) | 含まれない |
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つまり315.7千円は、残業代と賞与を除いた6月分の支給額です。
調査は毎年6月分の賃金を対象にしているため、月ごとの変動も反映されていません。
これを12倍すると約379万円になりますが、賞与が出る職場ならこれより上、残業がなく賞与もなければこの水準、という読み方になります。
逆に「月額×12=年収」として紹介されている数字は、賞与を取りこぼしている可能性があります。
男女の差も押さえておく
令和7年の一般労働者全体の所定内給与額です。
| 区分 | 所定内給与額 |
|---|---|
| 男女計 | 340.6千円 |
| 男性 | 373.4千円 |
| 女性 | 285.9千円 |
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男女間賃金格差は男性を100とすると76.6です。
医療事務は女性の就業者が多い職種とされるため、全体平均よりも女性の数字が参考になります。
女性の正社員・正職員は304.9千円、それ以外は218.4千円でした。
資格手当の有無は勤務先次第ですが、応募の段階で差が出ます。
取得までの費用は医療事務講座の料金一覧にまとめました。
医療事務の年収を左右する4つの要素
公的な平均値がない以上、条件から見積もるしかありません。
年収を動かす要素は次の4つに整理できます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 正職員かパートか。全産業では月額で117.1千円の差 |
| 勤務先の規模 | 病院か診療所か。扱うレセプト件数と組織の大きさが違う |
| 担当業務の範囲 | 受付のみか、レセプト請求や点検まで担うか |
| 地域 | 最低賃金と求人の競合状況が地域で異なる |
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このうち自分で動かせるのは雇用形態と担当業務の範囲です。
レセプト業務まで任される人材かどうかで提示額が変わるため、資格の取得が条件面に影響する余地があるのはこの部分です。
仕事内容の切り分けは医療事務の仕事内容で確認できます。
斉藤さやか資格を取れば年収が上がる、という単純な話ではありません。ただ「レセプトを任せられる人」として応募できるかどうかは、最初の提示額と任される範囲に効いてきます。そこが資格の現実的な使いどころだと思います。
医療事務の年収に関するよくある質問
医療事務の平均年収はいくらですか?
公的な統計では特定できません。
日本標準職業分類に「医療事務員」の区分がなく、賃金構造基本統計調査でも医療事務だけを抜き出した集計は公表されていません。
なぜ求人サイトには平均年収が載っているのですか?
各サイトが自社に掲載された求人の提示額を集計した数字です。
掲載企業の構成で変わるため、サイト間で差が出ます。
医療,福祉の315.7千円を目安にしてよいですか?
医療機関で働く人全体の平均としては妥当ですが、医療事務の目安としては過大になる可能性があります。
医師・看護師・薬剤師などを含んだ数字です。
資格を取ると年収は上がりますか?
資格と収入の関係を示した公的データはありません。
任される業務範囲が変わることで条件に影響する場合がありますが、金額を保証するものではありません。
正職員とパートではどのくらい違いますか?
全産業の令和7年の数字では、所定内給与額が男女計で正社員・正職員358.8千円、それ以外241.7千円でした。
差は117.1千円で、格差指数は67.4です。
年齢が上がれば収入も増えますか?
産業「医療,福祉」では40〜44歳328.6千円から55〜59歳347.8千円までの上昇にとどまります。
15年で19.2千円で、大きな上昇は見込みにくい構造です。
まとめ|医療事務の年収は公的統計では特定できない
- 日本標準職業分類の事務従事者に「医療事務員」の区分はない
- そのため賃金構造基本統計調査に医療事務の職種別賃金は存在しない
- 最も近い公的数字は産業「医療,福祉」の315.7千円(令和7年・対前年3.0%増)
- ただし医師・看護師を含む平均なので医療事務の目安には使えない
- 雇用形態の差は全産業で117.1千円、格差指数は67.4
- パート前提なら短時間労働者の1時間当たり賃金1,518円が参考値
- 自分で動かせるのは雇用形態と担当業務の範囲の2つ
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